チャイロホソヒラタカミキリは、日本に分布するカミキリムシ科スギカミキリ族の一種です。同じ種類とは思えないほど劇的な色彩変異(褐色型と青藍型)を持つことが特徴とされています。人里近い貯木場や薪材などに見られます。

2015年5月 山梨県北杜市
基本情報
| 体長 | 8.0 ~15.0㎜ |
| 分布 | 北海道、奥尻島、本州、佐渡、四国、九州 |
| 食草・寄生植物等 | 広葉樹各種 |
| 成虫出現期 | 5~7月 |
観察と撮影後記
本種は、かつて福島県の檜枝岐村などの山間部において、貯木場や民家に積まれたケンタ材(薪材)で非常に多く見られた種です。色彩には個体変異があり、明るい褐色のタイプと、金属的な光沢を放つ青藍色のタイプの2種類が混在して観察されます。日中は樹皮の下などに潜んでいますが、夕方から夜間にかけて活動が活発になり、その姿を現します。
一方で、原生林のような自然環境下での観察例は極めて稀であり、多くは人の営みに伴う二次的な環境(貯木場等)に依存しています。戦後に個体数が急増したとされており、『日本産カミキリ大図鑑』等では、古くに海外から持ち込まれた可能性を示唆する「灰色外来種」という概念で紹介されることもあります。その特異な分布拡大の背景も含め、非常に興味深いカミキリムシと言えます。
学名について
チャイロホソヒラタカミキリ / Phymatodes testaceus (Linnaeus, 1758)
1. 属名:Phymatodes (フィマトーデス)
本属名はギリシャ語由来の2つの要素から構成されています。
“phyma” (φῦμα): 「腫れもの」「隆起」「突起」を意味します。
“-odes” (-ώδης): 「〜のような」「〜に似た」という接尾辞です。
これは、本属の種が持つ前胸背板の隆起や構造に由来するものと考えられます。なお、本種は指名亜属である Subgenus Phymatodes (Mulsant, 1839) に分類されます。
2. 種小名:testaceus (テスタケウス)
ラテン語の形容詞で「レンガ色の」「土器色の」あるいは「甲羅のある」を意味します。
これは本種の代表的な変異型である「褐色型(茶色型)」の上翅の色に由来しています。
3. 指名亜種である背景
本種は Phymatodes testaceus testaceus とされ、種小名と亜種名が重なる「指名亜種」です。これは、1758年にリンネによって記載された個体群が、種全体の基準(タイプ)となっていることを示します。世界中に広く分布する本種にはいくつかの亜種が知られていますが、日本産は通常この指名亜種に含められます。
4. 命名者と年号:(Linnaeus, 1758)
命名者: Carl Linnaeus(カール・フォン・リンネ)。18世紀のスウェーデンの博物学者で、「分類学の父」として知られます。記載文献: “Systema Naturae per regna tria naturae, secundum classes, ordines, genera, species, cum characteribus, differentiis, synonymis, locis.” Editio decima, reformata. Holmiae: Laurentii Salvii. Tom. I: 396. (1758)
和名の由来
「チャイロ(茶色)」は褐色型の体色を、「ホソ(細)」はスリムな体型を、「ヒラタ(平)」は極めて平たい体の構造をそれぞれ表しています。本種の特徴を的確に捉えた名称です。


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