アカアシオオアオカミキリ / Chloridolum(Parachloridolum) Japonicum (Harold, 1879)

アカアシオオアオカミキリは、日本に分布するアオカミキリ族の一種で、全身が金属光沢のある金緑色を呈します。脚や触角が赤褐色である点が特徴で、夜行性のためクヌギ類の樹液に集まる姿がよく観察されます。近年はナラ枯れの進行に伴い、都心部などで生息数が増加傾向にあります。

オオアオカミキリ 夜間 写真 自然
2015年7月 山梨県韮崎市
アカアシオオアオカミキリ 都内 大発生 夜間撮影
2023年7月 東京都国立市

上記の写真撮影の際に動画も合わせて撮りました。

基本情報

スクロールできます
体長25.0~30.5㎜
分布本州、四国、九州
食草・寄生植物等幼虫:クヌギの生木 ナラ枯れ(カシノナガキクイムシによる被害)を受けた木を利用する事例も報告されています。  
成虫:クヌギなどの広葉樹から出る樹液
成虫出現期7~9月

観察と撮影後記

中学生の頃、九州に住んでいた当時は、本種はなかなか出会えない存在で、どこか幻のカミキリムシのように感じていました。

夜行性の甲虫は、一般に地味な体色を持つものが多い印象がありますが、アカアシオオアオカミキリは例外的に強い金属光沢を示し、夜間でもひときわ目を引きます。この派手な外見については、生物学的な「生存戦略」と、体表構造に由来する「物理的要因」の両面から、いくつかの説明が考えられています。

まず、本種は厳密な意味での完全な夜行性というより、夕暮れ時から活動を始める薄暮性の傾向が強いとされています。わずかに明るさの残る時間帯では、金属光沢が葉や幹の反射に紛れ、結果として迷彩的に機能する可能性があります。また、同種個体を識別するための視覚的な目印として働いている可能性も否定できません。日中は樹上の高所や葉裏などに潜みますが、木漏れ日の差す環境では、緑色の光沢が周囲の植生に溶け込み、鳥類などの天敵から身を守る役割を果たしているようにも見えます。

さらに、この金属光沢は色素によるものではなく、体表の微細な構造が光を反射して生じる構造色によるものです。この多層構造は、体表(クチクラ層)を物理的に強化する副次的効果を持つ可能性が指摘されており、乾燥や汚れ、あるいは寄生生物の付着を抑える働きがあるとも考えられています。美しさは、結果として得られた「高機能な外装」の表れなのかもしれません。

加えて、夜間であっても昆虫の視覚は月光や星明かりといった微弱な光を捉えることができます。近距離での接触や求愛行動において、体表の光沢や質感が、同種認識の重要な手がかりとなっている可能性も考えられます。また進化史的には、本種が属する系統は、もともと昼行性で鮮やかな体色を持つグループから派生したとされており、夜間活動に適応した後も、昼間の休息時に有利な「緑の保護色」を失う必要がなかった結果として、この外見が維持されているという見方もあります。

分布は本州・四国・九州とされていますが、実際には局地的な発生にとどまる例が多く、私自身も、撮影した山梨県を除けば、都内で近年まとまって見られるようになるまでは確認したことがありません。記録を見ても、鹿児島県、宮崎県、大分県、香川県、長野県では準絶滅危惧種、愛媛県、東京都、神奈川県では絶滅危惧種に指定されています。山梨県においても、要注目種として扱われています。

一方で、近年は東京都内でも確認例が増えつつあります。その背景として、主に二つの要因が指摘されています。

一つは、全国的に進行しているナラ枯れです。カシノナガキクイムシによる立ち枯れが進行したクヌギやコナラの大木からは樹液が多量に滲出し、成虫の重要な餌資源となります。また、衰弱木や枯死木は幼虫の発育場所としても適しており、産卵場所と餌資源が同時に供給されることで、局所的な個体数増加が起きやすい状況が生まれています。

もう一つは、都市部の緑地の高齢化です。明治神宮や代々木公園、住宅地の古い庭木など、戦後に植栽されたクヌギ・コナラ類が大径木へと成長し、カミキリムシにとって利用しやすい環境が整いつつあります。そこにナラ枯れが重なったことで、これまで細々と生き残っていた個体群が目立つ形で現れるようになったと考えられます。

評価と実際の出現状況が変化していく過程を目の当たりにできる点は、昆虫観察の面白さの一つでしょう。もっとも、夜間調査には蚊という強敵が付きものなので、現地に足を運ぶかどうかは悩ましいところですが。

個人的には、樹液に集まるカブトムシのそばに、ひっそりと混じっているカミキリムシ――そんな存在感に、この種らしさを感じています。

学名について

属名:Chloridolum(クロリドゥルム)

属名は、体色の印象を端的に表した名称です。

  • chloris(ギリシャ語):緑色
  • -dolum:属名を形成するための語尾

これらから、「緑色に輝く体を持つカミキリムシ属」を意味すると解釈されます。
実際、本属の種はいずれも金属光沢のある緑色を基調とする体色を持ち、命名意図と形態的特徴がよく一致しています。

亜属名:Parachloridolum(パラクロリドゥルム)

  • para-(ギリシャ語):~に近い、類似した

すなわち、「Chloridolum 属に近縁なグループ」という意味を持ちます。
形態的にやや異なる特徴(体型や脚部の色彩など)を示す種群を、亜属として区別するために用いられています。

種小名:japonicum(ヤポニクム)

  • japonicus / japonicum(ラテン語):日本の、日本産の

本種が日本産であることを示す、地理的由来の種小名です。
19世紀の昆虫分類では、記載地をそのまま種小名に反映させる例が多く、本種もその典型と言えます。

命名者と記載年

本種は 1879 に、ドイツの昆虫学者
Edgar von Harold(エドガー・フォン・ハロルト)
によって新種として記載・命名されました。

Harold は19世紀後半に活躍した甲虫類の研究者で、とくにカミキリムシ科を含む多くの分類群で、東アジア産昆虫の記載を行っています。本種も、日本産標本に基づいて記載されたものです。

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