トホシハナカミキリ本州亜種/ Brachyta danilevskyi hanabusa Hirayama, 2018

本州の高山帯にのみ生息する「トホシハナカミキリ」。かつては北海道産と混同されることもありましたが、2018年の最新知見により、独立した本州亜種 Brachyta danilevskyi hanabusa として再定義されました 。標高2,000mを超えるお花畑でハクサンフウロなどに集まります 。

トホシハナカミキリ、高山帯の草原
トホシハナカミキリ、ハクサンフウロの訪花
トホシハナカミキリ、ハクサンフウロの訪花 ペア
2021年 7月 長野県松本市安曇上高地
2021年 7月 長野県松本市安曇上高地

基本情報

体長10.6~13.7㎜
分布本州(東北~中部地方)
食草・寄生植物等フクロウ草などの根部
成虫出現期7~8月

観察と撮影後記

本種は標高の高い草原に生息しています。今回の観察では、お昼の12時頃に花の上へ活発に出てくるように見えました。普段はハクサンフウロの花を主な活動拠点としており、吸蜜や休息を行う姿が見られます。

撮影時には、同じく高山帯を象徴する蝶であるベニヒカゲとの「2ショット」を試みましたが、両者が同じ花に静止するチャンスには恵まれませんでした。

学名・新亜種名について

『本州産トホシハナカミキリについて ―1亜種の置換名提唱―』(平山洋人, 2018)を引用しました。

1.新亜種名

本州産のトホシハナカミキリの集団は、過去に命名された学名が無効名であったこと、および北海道・大陸産の原亜種との形態的差異が認められることから、新たな置換名(新亜種名)が与えられました 。

  • 新亜種名: Brachyta danilevskyi hanabusa Hirayama, 2018
  • 和名: トホシハナカミキリ本州亜種

2. 北海道産(原亜種)との主な識別点

本州産亜種は、北海道産の個体群(B. d. danilevskyi)と比較して以下の特徴で区別されます 。

  • 触角の長さ: 雌雄ともに、北海道産よりも僅かながら確実に触角が短い 。
    • 触角長/体長の比率(平均): 本州産 ♂0.71 / ♀0.58(北海道産 ♂0.75 / ♀0.62) 。
  • 上翅黒紋のバランス: 上翅会合部(合わせ目)付近にある2対の大型黒紋の大きさが異なる 。
    • 本州産: 先端側(後ろ側)の紋が、基部側(前側)の紋よりも明らかに大きい。個体によっては基部側の紋が消失することもある 。
    • 北海道産: 2対の紋はほぼ同大か、あるいは基部側の方が大きい 。

3. 生態と分布

  • 垂直分布: およそ標高2,000m以上の高山帯に生息し、本州では「唯一の純高山種」とされる極めて限定的な生態を持ちます 。
  • 訪花性: ハクサンフウロ、シナノキンバイ、ウサギギクなどの高山植物の花を好んで訪れます 。
  • 地理的分布: 東北地方(鳥海山、飯豊山塊など)から中部地方(北・中央・南アルプス、八ヶ岳、妙高山塊)の主要な山岳地帯に分布します 。

本州産亜種と北海道産(基名亜種)の比較

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比較項目トホシハナカミキリ本州亜種 (B. d. hanabusa)トホシハナカミキリ基名亜種 (B. d. danilevskyi)
学名Brachyta danilevskyi hanabusaBrachyta danilevskyi danilevskyi
分布本州(東北〜中部地方)北海道、利尻島、択捉島、国後島など
触角の長さ短い(♂平均0.71, ♀平均0.58)長い(♂平均0.75, ♀平均0.62)
上翅の斑紋先端側の対が明らかに大きい。基部側の対は消失することもある2対の斑紋はほぼ同大か、むしろ基部側の方が大きい

4. 属名:Brachyta (ブラキタ)

ギリシャ語の “brachys” (βραχύς) を語源としています。

意味: 「短い」を意味します。本属の種が他のハナカミキリ類に比べて、体型がやや短く、がっしりとしている形態的特徴に由来しています。

5. 種小名:danilevskyi (ダニレフスキー)

ロシアの著名なカミキリムシ研究者である Mikhail Danilevsky(ミハイル・ダニレフスキー) 氏への献名です。

背景: 本種は長らく「トホシハナカミキリ」として知られてきましたが、2005年に新種として記載されました。日本産は大陸産のものとは別種と判断された経緯があります。

6. 亜種名「hanabusa」(ハナブサ)

命名の背景: 本州産のトホシハナカミキリの集団に対し、2018年に平山洋人氏によって提唱された新置換名(nom. nov.)です 。

語源: 命名者の母であり、日本画家である平山英子(ひでこ)氏にちなんでいます 。彼女が日本画の落款(サイン)に用いている「英」の読み方である「はなぶさ」から採用されました 。幼少期に母から高山のお花畑の素晴らしさを教わったというエピソードを命名の由来として記しています 。

7. 命名者と年号:Hirayama, 2018

命名者:平山 洋人(ひらやま・ひろと) 。日本のカミキリムシ研究者。記載文献:”本州産トホシハナカミキリについて ―1亜種の置換名提唱―” (Notes on Brachyta danilevskyi Tshernyshev et Dubatolov, 2005 (Coleoptera, Cerambycidae) in Honshu, Japan). 月刊むし (Gekkan-Mushi), No. 573: 28–30. (2018)

和名の由来

上翅に左右合計で10個(十星)の黒い斑紋があることから「トホシハナカミキリ」と命名されました。ただし、個体によっては斑紋が繋がって帯状になったり、逆に消失したりする場合もありますが、標準的な形態を指してこの名が定着しています。

ホシハナカミキリ、ハクサンフウロの訪花駒ヶ根
2024年 7月 長野県駒ヶ根市赤穂
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