オニヒゲナガコバネカミキリは、日本に分布するカミキリムシ科ヒゲナガコバネカミキリ族の一種です。上翅(エリトラ)が極端に短く、下翅が露出しているのが特徴で、その姿は一見するとカミキリムシよりもハチに擬態しているように見えます。主に亜高山帯の針葉樹林に生息し、モミやトウヒ、カラマツなどの倒木や伐採木に集まる姿が観察されます。


基本情報
| 体長 | 6.3~12.8㎜ |
| 分布 | 本州(中部) |
| 食草・寄生植物等 | 幼虫:モミ、ウラジロモミ、トウヒ、カラマツなどのマツ科樹木の枯死木。 成虫:主に針葉樹の伐採木や倒木に集まります。ミズキやナシの花上で得られた事もあるようです。 |
| 成虫出現期 | 5~6月 |
観察と撮影後記
南会津の檜枝岐、フナマタ林道での光景が鮮明に蘇ります。1988年当時、道端に積まれた薪の中に、日中ポツリと1頭の姿を見つけたのが始まりでした。気になって夕刻、日暮れ時に再びその場所を訪れてみると、そこには驚くべき光景が広がっていました。
次から次へと飛来する個体。その数はゆうに3桁に達するのではないかと思えるほど。当初は夢中で行っていた採集も、あまりの多さに途中からは手を止め、ただただその乱舞を眺めていたものです。現在では、これほどの多産シーンに出会うことは稀かもしれません。今は、花上での写真が撮りたいものです。
学名について
オニヒゲナガコバネカミキリ / Molorchus pinivorus Takakuwa et Ikeda,1979
属名:Molorchus (モロルクス)
ギリシャ語の「molos(戦い・労苦)」や人名に由来するとされる説があり、古くからコバネカミキリ類に割り当てられている属名です。
種小名:pinivorus (ピニヴォルス)
ラテン語で「pinus(マツ)」+「voro(食べる)」を組み合わせたもので、「マツを食べるもの」という意味を持ちます。幼虫がマツ科の樹木をホストとすることを端的に表しています。
命名者と年号:Takakuwa et Ikeda, 1979
日本のカミキリムシ研究に大きく貢献された高桑正敏氏と池田清青氏によって1979年に記載されました。
和名の由来について
「オニ(鬼)」は、同属の他種に比べて体が大型であることや、力強い印象を与えることに由来します。「ヒゲナガ(髭長)」は触角が長いこと、「コバネ(小翅)」は上翅が短く退化している特徴を指しており、本種の特徴をすべて網羅した和名です。
なぜ1979年まで「未知の種」だったのか
1. 近縁種「ヒゲナガコバネカミキリ」との混同
本種が記載される以前、このグループで針葉樹をホストとする大型の個体は、広く分布する近縁種のヒゲナガコバネカミキリ(Molorchus minor)の変異体、あるいは単なる個体差として片付けられていた経緯があります。
外見の酷似: 両者は非常によく似ており、微細な構造(前胸背板の点刻や触角の比率など)を詳細に比較検討する研究者が現れるまで、同一視されていました。
1970年代に入り、日本のカミキリムシ相の研究がより精緻化されたことで、それまで「マツを食べるマイナー(minor)」と一括りにされていた中から、独立した種としての特徴が見出されました。
2. 学名の構成に見る「発見」の意図
命名者の高桑氏らが種小名に 「pinivorus(マツを食べるもの)」 と名付けたことからも 、それまで漠然と広葉樹・針葉樹両方を食べると誤解されていたコバネカミキリ類の中から、明確に「針葉樹(マツ科)専食の独立種」として定義し直す必要があったことが伺えます。
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