キタセスジヒメハナカミキリは、日本に分布するカミキリムシ科ハナカミキリ亜科ヒメハナカミキリ属(Pidonia属)の一種です。2010年に亜種から独立種へと昇格した種であり、鞘翅の会合線沿いに現れる黒色の条紋(セスジ)と、雄交尾器の形態的特徴により近縁種と区別されます。主に東北地方の山岳地帯に分布し、ブナ帯を中心とした自然度の高い森林内に局地的に生息します。

基本情報
| 体長 | 6.3~8.4㎜ |
| 分布 | 北海道、東北地方北東部 |
| 食草・寄生植物等 | 未知 成虫は訪花性を持ち、花粉や蜜を摂取 |
| 成虫出現期 | 5~7月 |
注)ヒメハナカミキリ属(ピドニア)を写真のみで完全に同定することは、本来非常に困難です。本記事では図鑑の記述に加え、採集地や個体の雰囲気を総合して判断しておりますが、あくまで参考程度にご覧ください。もし明らかな誤りにお気づきでしたら、お手数ですが[こちらのメール]までご連絡いただけますと幸いです。ご協力に感謝いたします。
観察と撮影後記
本種は長らく近縁種の亜種として扱われてきましたが、2010年に独立種(別種)へと昇格しました。分類学的再検討を経てその独自性が認められた経緯があります。
今回の個体は岩手県川井村(現・宮古市)において撮影されたものです。撮影地の地理的条件および分布域から、本種であると推定・同定しました。ヒメハナカミキリ属は酷似する種が多いですが、分布域の記録は重要な同定根拠となります。
学名について
キタセスジヒメハナカミキリ / Pidonia (Cryptopidonia) kurosawai (Ohbayashi et Hayashi, 1960)
1. 属名:Pidonia (ピドニア)
この属名は、ギリシャ語の「pidax(泉、水源)」に由来するとされています。ハナカミキリ亜科の中でも、湿度の高い森林や渓流沿いの環境を好む本属の生態的特徴を示唆しています。
※本種はさらに、亜属として (Cryptopidonia) に分類されます。
2. 種小名:kurosawai (クロサワイ)
こちらは、日本を代表する高名な昆虫学者であり、国立科学博物館の元動物研究部長でもある黒澤良彦 博士(Dr. Yoshihiko Kurosawa)に献名されたものです。 属名が環境や姿を指すのに対し、種小名に特定の人物名を冠することで、日本の甲虫研究における功績を称える構成になっています。
3. 命名者と年号:(Ohbayashi et Hayashi, 1960)
Kazuo Ohbayashi(大林一夫)& Masao Hayashi(林匡夫): 20世紀後半の日本におけるカミキリムシ研究を牽引した二人の専門家によって共同で命名されました。
括弧の意味: 命名者と年号が括弧で括られているのは、記載当時は別の属(あるいは亜種)として発表され、その後に現在の属名(Pidonia)へと組み合わされた(組合せ変更)ことを示しています。【記載文献・書籍】初出: Ohbayashi, K. & Hayashi, M. (1960) “Study of Lepturinae (Col.; Ceramb.)”. Entomological Review of Japan, 12(1): 13-16.
種昇格の根拠: The Longicorn Beetles of Japan in Color (2010), Tokai University Press.(2010年に独立種として扱われた際のリファレンスです)
和名の由来
和名の「キタ(北)」は、本種の主な分布域が東北地方(北部)であることに由来します。「セスジ(背筋)」は、鞘翅の会合線(左右の翅が合わさる背中の中心線)に沿って黒色の縦条が見られるという外見的特徴に基づいています。
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