キバネニセハムシハナカミキリは、日本(本州、四国、九州)に分布するハナカミキリ亜科ハイイロハナカミキリ族 ニセハムシハナカミキリ属の一種です。上翅が鮮やかな黄色(橙黄色)を呈し、ハムシ類に擬態しているとされるニセハムシハナカミキリ属の中でも、色彩による判別が比較的容易な種です。主に山地の広葉樹林に生息します。


基本情報
| 体長 | 4~8㎜ |
| 分布 | 本州、四国、九州 |
| 食草・寄生植物等 | 各種広葉樹 成虫: 訪花性があり、カエデ類、サワフタギ、ウツギ、などの花の蜜や花粉を摂取 |
| 成虫出現期 | 4~7月 |
観察と撮影後記
本種は、その名の通り「黄色い翅(上翅)」を持つ「ニセハムシハナカミキリ属」のカミキリムシであり、キバネニセハムシハナカミキリという和名は非常に識別点と分類群を理解しやすい名称です。どちらかと言えば、春先の撮影となりますが、あまり見かけなくなりました。
ところで、属名はラテン語の「lemures(死者の霊、幽霊)」に由来するそうですが、属名の Lemula は、その姿が似ているハムシ(Lema属)に由来する『小さなハムシ』という意味が有力ですが、語源を辿ればローマ神話の幽霊(lemures)にも繋がります。一見、恐ろしい名前ですが、実際には『森の中でふっと現れる、幽霊のように儚く繊細な虫』という、当時の学者の詩的な感性が隠れているのかもしれません。まさに『ニセハムシ』という名にふさわしい、観察者を惑わす存在とのことす。(後記の「属名についての補足」を参照)
学名について
キバネニセハムシハナカミキリ / Lemula decipiens Bates, 1884
1,属名:Lemula (レムラ)
Pascoe (1867) によって創設された属です。語源はラテン語の「lemures(死者の霊、幽霊)」に由来すると推測されますが、昆虫学においては小型で繊細な姿を指して用いられることがあります。
2.種小名:decipiens (デキピエンス)
ラテン語で「欺く」「惑わせる」を意味する現在分詞です。本属がハムシ類(Chrysomelidae)に酷似し、観察者を惑わせるような擬態を示すことに由来すると考えられます。
3.命名者と年号:Bates, 1884
Henry Walter Bates: 19世紀のイギリスの昆虫学者・博物学者。アマゾン川流域の探検で知られ、いわゆる「ベイツ型擬態」の提唱者です。記載文献: Bates, H. W. (1884) “Longicorn Beetles of Japan.” Journal of the Linnean Society of London, Zoology, 18: 205–262. (該当ページ: p.212)
属名についての補足
1.ハムシ(Lema属)への擬態
分類学の世界では、属名 Lemula はハムシ科の属名である Lema(レマ属)に、縮小辞「-ula(小さい、〜のようなもの)」をつけたものと解釈するのが最も自然です。
Lema:クビホソハムシ属などのハムシ。(甲虫の自然図鑑:ヤマイモハムシ / Lema honorata Baly, 1873)
Lemula:ハムシ(Lema)に似た、小さく可愛らしいもの。
本種の和名が「ニセハムシハナカミキリ」であることからも分かる通り、このグループはハムシ類に外見が酷似しています。19世紀の昆虫学者パスコー(Pascoe)は、ハナカミキリでありながらハムシのような姿をしたこの虫を見て、「小さなハムシ(Lema)もどき」という意味を込めて Lemula と名付けた可能性が極めて高い。
2. 「lemures(幽霊)」との関係
「幽霊」という言葉が引き合いに出される背景は霊長類の「レムール(キツネザル)」の命名の歴史と混同、あるいはなぞらえられているためです。
キツネザルの例:リンネがキツネザルを Lemur(幽霊)と名付けたのは、彼らが夜行性で、暗闇に光る大きな目を持ち、音もなく動く様子が「死者の霊」のようだったからです。
分類学における「Lemures」やその派生語は、しばしば夜の精霊」や「森の影に隠れる存在」、「掴みどころのない繊細な生き物」という、どこか詩的な表現として使われることがあります。いわゆる西洋の「Ghost」とは違うニュアンスです。
和名の由来
本種の和名は、その形態的特徴と所属する分類群に基づいています。「キバネ(黄翅)」は成虫の上翅が鮮やかな黄色であることを指し、「ニセハムシハナカミキリ」は、姿がハムシ(葉虫)に似ているハナカミキリの仲間であることを示しています。
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