ホンドニセハイイロハナカミキリは、日本に分布するカミキリムシ科ハイイロハナカミキリ族の一種です。がっしりとした頭部と前胸の鋭いトゲ、そして短い触角が特徴とされています。山間部のアカマツやモミ、カラマツなどの針葉樹の倒木や土場によく見られます。




基本情報
| 体長 | 9~16㎜ |
| 分布 | 本州、四国、九州 |
| 食草・寄生植物等 | マツ科の樹皮 |
| 成虫出現期 | 3~7月 |
観察と撮影後記
日本産のハイイロハナカミキリ属(Rhagium属)には、本州に分布する本種のほか、北海道のエゾハイイロハナカミキリ、対馬のツシマニセハイイロハナカミキリが知られています。なお、本種にはニセハイイロハナカミキリという別称もあります。
本種は夏頃、樹皮下の蛹室内で羽化したのち、そのまま越冬し、翌春に脱出します。このような生活史のため、屋外で成虫を目にする機会は比較的少ない種といえるでしょう。また、「ハナカミキリ」という名称から想像される華やかな印象とは異なり、やや地味で独特な雰囲気をもつカミキリムシです。個人的には複眼が印象的です。
| 項目 | ホンドニセハイイロハナカミキリ | エゾハイイロハナカミキリ | ツシマニセハイイロハナカミキリ |
| 標準和名 | ホンドニセハイイロハナカミキリ | エゾハイイロハナカミキリ | ツシマニセハイイロハナカミキリ |
| 学名 | Rhagium (Rhagium) femorale | Rhagium (Rhagium) inquisitor rugipenne | Rhagium (Rhagium) hayashii |
| 主な分布 | 本州(東北〜中国地方) | 北海道、利尻島、礼文島、千島、樺太 | 対馬 |
| 腿節の色彩 | 赤褐色(先端部や基部が黒ずむことが多い) | 黒色 | 赤褐色 |
| 上翅の縦条 | 比較的弱く、隆起が目立たない | 強く隆起し、明瞭である | 比較的弱く、ホンドニセに似る |
| 上翅の点刻 | 小さく緻密 | 粗く大きい | 緻密だが、ホンドニセよりやや粗い |
| 分類学的地位 | 日本固有の独立種(1994年記載) | ユーラシア広域種の日本亜種 | 日本固有の独立種 |
| 主な寄主植物 | マツ科(アカマツ、モミ、ツガ等) | マツ科(エゾマツ、トドマツ等) | マツ科(クロマツ、モミ等) |
識別について
- 分布による切り分け: 基本的にこの3種は分布域が重ならない(異所的分布)ため、採集・観察場所がどこであるかが最も確実な判断材料となります。
- 「脚の色」と「背中の筋」: 本州産のホンドニセと対馬産のツシマニセは、脚(腿節)が赤褐色になることで、脚が黒い北海道産のエゾハイイロと容易に区別できます。また、エゾハイイロは上翅(背中)の縦条(スジ)が非常に強く発達し、ゴツゴツとした印象を与えます。
- ホンドニセとツシマニセの差異: この2種は外見上非常によく似ていますが、オスの交尾器パラメラ(側片)の形状や、上翅の微細な点刻の密度によって区別されます。分類学的には、対馬産のツシマニセの方がより古い系統である可能性が指摘されています。
学名について
ホンドニセハイイロハナカミキリ / Rhagium (Rhagium)femorale N.Ohbayashi 1994
1.属名: Rhagium (ラギウム)
ギリシャ語の「rhagion(ῥάγιον:小さな葡萄、またはある種のクモ)」を語源とします。本属の昆虫が持つ、独特の体型や質感を表現したものと考えられています。
2.亜属名: Rhagium (ラギウム)
属名と同一(指名亜属)です。
3.種小名: femorale (フェモラーレ)
ラテン語の「femur(腿節)」に由来する形容詞で、「腿節の」「腿節に関する」という意味です。これは、本種を識別する形態的特徴(腿節の色彩や形状)が命名の鍵となったことを示唆しています。なお、本種は1994年に独立種として記載されており、亜種は認められていないため、本種そのものが基部標本となります。
4.命名者と年号: N. Ohbayashi, 1994
命名者:大林延夫(Nobuo Ohbayashi)。日本のカミキリムシ分類学における権威であり、愛媛大学名誉教授。日本産ハナカミキリ亜科の系統分類に多大な功績を残しています。記載文献: “A Taxonomic Study of the Genus Rhagium (Coleoptera, Cerambycidae) from Japan.” Japanese Journal of Entomology, 62(1): 165–177. (1994)
和名の由来
本州産の個体群が独立種として整理された際に、分布域である「本州(ホンド)」と、旧来の「ハイイロハナカミキリ」に似て非なるもの(ニセ)という意味を込めて命名されました。本種は長年、ユーラシア広域分布種である Rhagium inquisitor の一部と見なされていましたが、大林(1994)の研究により、雄交尾器の形態や外形的特徴から本州固有の独立種であることが判明しました。この分類学的変遷に基づき、「ホンド(本州)」「ニセ(真のハイイロハナカミキリではない独立種)」という接頭語が付されたものと推察されます。
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