アオバホソハナカミキリは日本に分布するカミキリムシ科ハナカミキリ亜科ハナカミキリ族のカミキリムシ。
2亜種に分かれ、他は対馬と樺太に産します。日本列島という島国の中で「本土(北海道〜九州)」と「周辺の島々(樺太・対馬など)+大陸」で二分されているのがこの虫の面白い特徴です。


以下は花上の動画です
基本情報
| 体長 | 8.9 ~14.9㎜ |
| 分布 | 北海道(渡島半島)、本州、佐渡、隠岐、四国、九州 |
| 食草・寄生植物等 | 幼虫:ブナ、リョウブ、ヒメシャラといった広葉樹の枯死材 成虫:ノリウツギ、クリなどの各種の花に集まり、花粉や蜜 |
| 成虫出現期 | 4~8月 |
観察と撮影後記
本種において、対馬産個体群が基亜種とされ、それ以外の日本各地の個体群が日本本土亜種として区別されている点は、初見ではやや意外に感じられる分類体系です。
| 区分 | 和名 | 学名 | 分布 |
| 基亜種 | アオバホソハナカミキリ | Strangalomorpha tenuis tenuis | 樺太、対馬、朝鮮半島、中国、ロシア極東地域など※1 |
| 日本本土亜種 | ホンドアオバホソハナカミキリ | Strangalomorpha tenuis aenescens | 本州、四国、九州、北海道など |
本種は、当初、対馬(あるいは大陸側)で採集された個体を基準標本として記載され、Strangalomorpha tenuis の学名が与えられた。その後、本州をはじめとする日本本土の個体群について、上翅の光沢や体表の毛の生え方などに一定の形態差が認められるとして、基亜種とは区別され、日本本土亜種(ホンドアオバホソハナカミキリ)として記載された経緯があります。
このため、対馬産個体群を(狭義の)アオバホソハナカミキリ、日本本土に広く分布する個体群をホンドアオバホソハナカミキリとして区別して扱うようです。
※1 生物地理学の面白さ
本種をめぐる分類や分布を見ていくと、生物地理学の視点から興味深い対比が浮かび上がってきます。とりわけ、次の二つの傾向のせめぎ合いは、観察を趣味とする立場から見ても大きな関心を引く点です。
1)大陸とのつながり
樺太や対馬は、地史的に見ると、かつてシベリアや朝鮮半島と陸続きであった時代を持つ地域です。そのため、現在でも大陸系の生物と共通する特徴を備えた個体群が残りやすいと考えられています。
対馬産のアオバホソハナカミキリが基亜種として位置づけられている点も、こうした歴史的背景を踏まえると、単なる分類上の都合ではなく、生物地理学的な必然性を感じさせます。
2)北海道の特殊性
一方で、北海道は一般に、樺太と生物相が似通うことが多い地域として知られています。しかし、アオバホソハナカミキリに関しては、北海道の個体群は樺太型ではなく、本州や四国、九州と同じ「日本本土亜種(ホンドアオバホソハナカミキリ)」に含められています。
この点は、一見すると直感に反するようにも思えますが、過去の分布拡大の経路や、氷期・間氷期における生息環境の変遷を想像すると、納得のいく側面もあります。野外で個体を観察しながら、こうした背景に思いを巡らせることも、分類や分布を知る楽しみの一つと言えるでしょう。
学名について
1. 属名:Strangalomorpha(ストランガロモルファ)
属名 Strangalomorpha は、同じハナカミキリ類の Strangalia(ストランガリア)属に由来する。
- Strangalo-:ハナカミキリ類を示す名称(語源はギリシャ語に由来し、「ねじれた」「細い」といった意味を含むとされる)
- -morpha:ギリシャ語で「形」「形態」を意味する
これらを合わせ、「ストランガリア属に似た形態を持つもの」といった意味合いを持つ属名と解釈される。特に、ハナカミキリ類の中でも細身で引き締まった体型を示す点を表現した名称と考えられます。
2. 種小名:tenuis(テヌイス)
種小名 tenuis はラテン語に由来し、
- tenuis: 「細い」「薄い」「繊細な」
といった意味を持つ。アオバホソハナカミキリが、他のカミキリムシ類と比較しても極めてスレンダーで華奢な体型を示すことから、この種小名が付されたものと考えられる。
学名の意味のまとめ
学名 Strangalomorpha tenuis は、直訳的には「ストランガリア属に似た形態を持つ、細長い体のもの」といった意味合いとなり、和名に含まれる「ホソ(細)」という表現も、この種小名 tenuis の意味を反映した命名であると理解できます。
亜種名の由来
日本本土亜種の亜種名 aenescens(アエネスケンス)にも、形態的特徴を反映した意味があるようです。
- aenescens:ラテン語で「青銅色を帯びた」「銅色の光沢を示す」
日本本土亜種では、基亜種と比較して青銅色の光沢がより顕著に見られることから、この名称が与えられたと考えられます。
命名者と年:Bates, 1884
Henry Walter Bates(ヘンリー・ウォルター・ベイツ) は、イギリスの有名な博物学者です。彼は1884年に、日本から送られた標本をもとに多くのカミキリムシを新種記載しました。この種もその際、日本の昆虫相の豊かさを象徴するものの一つとして世界に紹介されました。
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