フタオビノミハナカミキリ / Omphalodera puziloi (Solsky, 1873)

フタオビヒメハナカミキリは、日本に分布するカミキリムシ科ヒメハナカミキリ族の一種です。成虫は西日本では4~6月、北日本では6~7月に見られます。

フタオビヒメハナカミキリ、自然写真
2019年8月 岐阜県高山市高根町
フタオビヒメハナカミキリ、自然写真2
2017年6月 山梨県北都留郡

基本情報

スクロールできます
体長4.2 ~7.6㎜
分布本州、四国、九州、隠岐島、淡路島、宮島
食草・寄生植物等ミズキ
成虫出現期4~6月 高地 5~7月

観察と撮影後記

西日本の低山帯~山地帯の落葉広葉樹林で4~6月、北日本では6~7月に見られる。ミズキ、ナナカマドなどの花に集まる。なお、本種の和名については、「フタオビヒメハナカミキリ」とする記述も見られましたが、『日本のヒメハナカミキリ』(むし社、窪木幹夫著、2024年8月発行)および、『日本列島の甲虫全種目録』を確認したところ、本種はフタオビノミハナカミキリ属(Omphalodera)として独立して扱われ、和名も「フタオビノミハナカミキリ」とされており、こちらを採用する事としました。「ノミ」という名称は、その極めて小型な体躯に由来する伝統的な命名であり、最新の学術的知見においてもこの名称が正当なものとして維持されているようです。

学名について

フタオビヒメハナカミキリ /  Pidonia (Omphalodera) puziloi (Solsky,1873)

1.属名: Omphalodera (オムファロデラ)

ギリシャ語の「omphalos(ὀμφαλός:へそ、中心の突起や凹み)」と「derē(δέρη:首、前胸)」の合成語です。本属の最大の特徴である、前胸背板中央にある円形の深い凹みを「へそ」に見立てた命名です。

2.種小名: puziloi (プジロイ)

19世紀のロシアの軍人・採集家である Mikhail Mikhailovich Puzilo への献名です。

3.命名者と年号: (Solsky, 1873)

命名者:Simon Martynovic Solsky(シモン・マルティノヴィチ・ソルスキ)。記載文献:Horae Societatis Entomologicae Rossicae, 9: 232-277. (1873)

和名の由来

「フタオビ(二帯)」は、上翅にある2本の淡色横帯に由来することが、多くの図鑑の形態解説で明示されています。また、「ノミ(蚤)」の命名の直接的な由来は確認できません。本種は体長10mm以下と非常に小型であることから、小型の昆虫に冠される接頭語である「ノミ」を用いた命名であると推察されます。一部で「ヒメ」への改称が試みられた経緯もありますが、最新の専門文献(2024年)では「ノミ」の名称が標準として採用されていると思われます。

命名者:Simon Martynovic Solskyについて

1. 人物概要

  • フルネーム: Simon Martynovich Solsky(ロシア語: Семён Мартынович Сольский)
  • 生没年: 1831年 – 1879年
  • 国籍: ロシア
  • 職業: 官僚(ロシア帝国内務省)および昆虫学者。
  • 所属: ロシア昆虫学会(Russian Entomological Society)の創設メンバーの一人であり、長年にわたり学会誌『Horae Societatis Entomologicae Rossicae(ロシア昆虫学会紀要)』の編集に関わりました。

2. 主な実績と専門分野

ソルスキの功績は、当時未開拓であったロシア帝国領内(シベリア、極東、中央アジア)の甲虫相を網羅的に調査・記載した点にあります。

  • 地域的貢献: ロシアの探検家たちが持ち帰った標本を精査し、アムール川流域(極東ロシア)やトルキスタン(中央アジア)の昆虫相に関する先駆的な論文を多数執筆しました。
  • 分類学的貢献: カミキリムシ科のみならず、ハネカクシ科、ゴミムシダマシ科、オサムシ科など、広範な甲虫類の記載を行いました。彼の記載した種は現在でも有効なものが多く、その観察眼の確かさが窺えます。

3. 主要な著作

彼の最も有名な仕事の一つは、アレクセイ・フェドチェンコによるトルキスタン探検の成果をまとめた報告書です。

  • 『Reise in Turkestan(トルキスタン旅行記)- Coleoptera 部門』 (1874–1876) 中央アジアの甲虫相に関する記念碑的な著作であり、現在も同地域の研究における基礎資料となっています。
  • 『Horae Societatis Entomologicae Rossicae』への寄稿 フタオビノミハナカミキリ(1873年)を含む、極東ロシアの甲虫に関する多くの新種記載論文をこの学会誌に発表しました。

4. 本種(フタオビノミハナカミキリ)との関わり

ソルスキは1873年、東シベリアおよびアムール地域から得られた標本に基づき、本種を新種として記載しました。

  • 種小名の選定: 彼は、採集者でありロシアの軍人・博物学者であった Mikhail Mikhailovich Puzilo(プジロ)を記念して、種小名を puziloi と命名しました。
  • 学術的意義: 当時、極東のハナカミキリ類は欧州の昆虫学者にとっても未知の領域が多く、ソルスキによる記載は、日本のカミキリムシ相が大陸(シベリア・中国)とどのように関連しているかを解明する初期の重要な手がかりとなりました。

5. 評価

ソルスキは、プロの昆虫学者としての地位を持ちながらも、本職は内務省の官僚でした。しかし、その学術的専門性は極めて高く、ロシア昆虫学会の発展に尽力した「ロシア甲虫学の父」の一人と目されています。彼の名前は、彼自身が記載した種だけでなく、他の学者から彼に献名された多くの昆虫(solskyi という種小名)にも刻まれています。

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