チチブニセリンゴカミキリは、日本に分布するカミキリムシ科トホシカミキリ族の一種です。上翅の黒い紋様と、リンゴカミキリをさらに細くしたようなスリムな体型が特徴とされています。各種広葉樹で見られます。


基本情報
| 体長 | 10~15㎜ |
| 分布 | 本州(近畿地方以北)佐渡 |
| 食草・寄生植物等 | 各種広葉樹 |
| 成虫出現期 | 5~8月 |
観察と撮影後記
本種は1属1種の日本特産種であり、学名に「Niponostenostola niponensis niponensis」と「日本」を意味する単語が3つ並ぶ、非常に日本的な背景を持つカミキリムシです。
現在、以下の3亜種に分類されています。
チチブニセリンゴカミキリ(指名亜種): 本州(近畿地方以北)、佐渡に分布。
コジマベニスジカミキリ: 本州(中国地方)、四国、九州、種子島に分布。
コウノニセリンゴカミキリ: 北海道、奥尻島に分布。
これらの分布域がどのように接し、緩衝地帯でどのような変異が見られるのかは、気になるところです。また、かつては主要なホストであるカツラにちなみ「カツラカミキリ」とも呼ばれていましたが、現在の標準和名は記載地と分類学的特徴に基づいています。3亜種のうち、なぜ「ニセ」を冠するものとそうでないもの(コジマベニスジ)が混在するなど、命名の歴史には当時の分類学者の意図が反映されています。なお、和名の「チチブ」は、模式産地である秩父地方に由来する事実に基づいた名称です。
学名について
1.属名:Niponostenostola(ニポノステノストーラ)
解析と語源: 本属は「Nipono-(ニポノ:日本)」と「-stenostola(ステノストーラ)」の合成語です。
構成要素: 後半の Stenostola(ステノストーラ:ヒメハナカミキリ族に近い属名)は、ギリシャ語の「stenos(ステノス:狭い、細い)」と「stole(ストーレ:衣服、装い)」に由来します。
意味: 全体として「日本産の、細身の装いをしたもの」を意味します。(1属1種)。
2.種小名・亜種名:niponensis niponensis(ニポネンシス・ニポネンシス)
語源: 「niponensis(ニポネンシス)」は「日本(Nipon)」に、地名を示す接尾語「-ensis(エンシス)」を組み合わせたラテン語の形容詞形で、「日本産の」を意味します。
名称が重なる背景(指名亜種の解説): 本種は現在、3つの亜種(指名亜種、コジマベニスジ、コウノニセリンゴ)に分類されています。動物命名規約に基づき、その種の中で最初に記載された個体群は、種小名と同じ名前を亜種名として繰り返すルール(指名亜種:nominotypical subspecies)があるため、niponensis niponensis(ニポネンシス・ニポネンシス)と表記されます。
3.命名者と年号: (Pic, 1901)
命名者: Maurice Pic(モーリス・ピック)。19世紀後半から20世紀半ばにかけて活動したフランスの昆虫学者で、生涯に数万種もの新種を記載したことで知られます。記載文献: Pic, M. (1901) “Descriptions de Coléoptères nouveaux.” L’Échange, Revue Linnéenne, 17 (196): 25–27.
和名の由来
本種の名称については、以下の歴史的経緯が確認されています。
「チチブ」の由来: 1901年の Pic による新種記載において、タイプ標本の採集地(模式産地)が「秩父」であったという事実に基づいています。
「ニセリンゴ」の由来: 当初はリンゴカミキリ属(Oberea)の一種として記載されていましたが、1959年に大林一夫氏によって新属 Niponostenostola が創設されました。リンゴカミキリ属に極めて似た外見を持ちながら別属であるという分類学的事実を示すため、「ニセ(擬)」の名が冠されました。
「カツラカミキリ」からの変更: 以前は、特定のホストであるカツラとの強い結びつきから「カツラカミキリ」と呼称されることもありました。しかし、分類学的な正確性と模式産地を優先する観点から、現在の「チチブニセリンゴカミキリ」が標準和名として固定されました。「チチブ」は、本種のタイプ標本が採集された記載地である埼玉県秩父地方に由来します。「ニセリンゴ」は、本種がリンゴカミキリ属(Oberea)に似た外見を持ちながら、分類学的には異なる属であることを示すために命名されました。
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