アカハナカミキリは日本に分布するカミキリムシ科ハナカミキリ亜科ハナカミキリ族のカミキリム。全身が鮮やかな朱色〜赤褐色で、つや消しの質感が特徴です。
夏、特に晩夏を代表するカミキリムシと思います。


基本情報
| 体長 | 12.7 ~20.4㎜ |
| 分布 | 北海道、礼文島、利尻島、焼尻島、天売島、奥尻島、千島列島(国後島)、 本州、飛島、粟島、佐渡、四国、九州 |
| 食草・寄生植物等 | 幼虫: マツ類などの針葉樹や、ハンノキ、クヌギなどの広葉樹の枯死木・伐採木 成虫: ノリウツギ、リョウブ、ウドなどの白い花の花粉や蜜 |
| 成虫出現期 | 7~9月 |
観察と撮影後記
個人的には、これを見ると、虫のシーズン末期と認識してしまいます。8月になると写真のように、アカハナカミキリ祭りのような状態になります。
他のハナカミキリと比べると寄生植物の範囲が広いせいか極めて普通種といわれていますが、環境の影響を受けやすいとも言われており、普通種とは言われつつ、見かけたら1枚は撮るようにしています。個人的には学名が面白いので好きです。
学名について
アカハナカミキリ / Aredolpona succedanea (Lewis,1879)
属名:Aredolpona
この属名は、実はアナグラム(文字の入れ替え)によって作られた珍しい名前です。
- もともとこの種は、ハナカミキリ属の 𝐿𝑒𝑝𝑡𝑢𝑟𝑎属に含まれていました。
- 分類が進む中で独立した属が作られる際、近縁の属名である 𝐿𝑒𝑝𝑡𝑢𝑟𝑎や 𝑆𝑡𝑟𝑎𝑛𝑔𝑎𝑙𝑖𝑎
などとの関連性を持たせつつ、既存の単語を並べ替えて作られた造語であると言われています。
- 直接的なラテン語の意味を持つ言葉ではなく、ハナカミキリ亜科の分類群を示すために体系的に与えられた名称です。
種小名:succedanea
種小名の 𝑠𝑢𝑐𝑐𝑒𝑑𝑎𝑛𝑒𝑎(スッケダネア) は、ラテン語の “succedaneus” に由来します。
- 意味: 「代わりの」「代用となる」「後から来る」「類似した」
- 由来の背景: 当時、ヨーロッパには既に 𝐿𝑒𝑝𝑡𝑢𝑟𝑎𝑟𝑢𝑏𝑟𝑎
という非常によく似た「アカハナカミキリ(欧州種)」が存在していました。
- ルイスは、日本で見つけたこの赤いカミキリが、ヨーロッパの既知種に極めてよく似ている(あるいはそれに代わる東アジアの種である)という意味を込めて「類似した・代わりの」というこの名を付けたと推測されます。
命名者:George Lewis(ジョージ・ルイス)
命名者の Lewis(ルイス) は、イギリスの昆虫学者です。明治時代に数回にわたって来日し、日本全国で膨大な数の昆虫を採集・研究しました。彼はアカハナカミキリ以外にも、日本の多くの甲虫を新種として記載した「日本甲虫学の父」の一人です。(1879) という年代は、彼がこの種を記載した論文を発表した年を示しています。
参考:ヨーロッパの近縁種との違い
「日本のアカハナカミキリ vs 欧州のアカハナカミキリ」
最大の違いは、「オスとメスの見た目(性的二型)」にあります。
| 比較項目 | 日本の A. succedanea | 欧州の S. rubra |
| メスの姿 | 全身が赤い(前胸も上翅も赤い) | 全身が赤い(日本産とよく似ている) |
| オスの姿 | メスとほぼ同じ(赤い) | 全く違う(黄色〜褐色) |
| 前胸の色 | 男女ともに赤いことが多い | オスは黒、メスは赤い |
| 体型 | やや細長く、シュッとしている | ややがっしりとして、太め |
「代わりの(succedanea)」と呼ばれた理由
命名者のルイスが日本でこの虫を見たとき、特にメスの個体がヨーロッパで親しまれていた S. rubra のメスにそっくりだったため、「東洋における rubra の代わり(後継種)」という意味を込めて命名したと考えられますが、詳しく調べると以下のような違いが明確になりました。
- オスの色彩の固定化:
ヨーロッパの種はオスが黄色く、メスが赤いというハッキリした違いがありますが、日本のアカハナカミキリはオスもメスも真っ赤です(※稀に黒っぽい個体もいますが基本は赤です)。 - 分類学的な位置:
かつては同じグループ(Leptura 属など)にまとめられていましたが、現在は属レベルで分けられています(日本:Aredolpona / 欧州:Stictoleptura)。これは、見た目は似ていても、生殖器の構造や詳細な形態が異なるためです。
ところで、日本産はオスも「赤い」のか?については諸説ありますが、「警告色」としての機能が関係していると言われています。
アカハナカミキリはベニカミキリやカミキリモドキの仲間など、毒を持っていたり不味かったりする他の赤い昆虫に姿を似せる(擬態)ことで、鳥などの天敵から身を守っていると考えられています。日本という環境下では、オスもメスも「赤」を選択した方が生存に有利だったのかもしれません。
余談ながら和名を見ていると日本では「アカ」との接頭語が付く昆虫が多いように思います。
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