シナノクロフカミキリは、日本に分布するカミキリムシ科フトカミキリ亜科シラホシサビカミキリ族に分類される昆虫の一種です。全体に黄褐色から灰褐色の微毛で覆われ、上翅には和名の由来となる不規則な黒い斑紋(黒斑)が散在する点が特徴です。ブナ、コナラ、クリなどの広葉樹の枯れ枝や、それらが混じる林縁部、伐採木などに生息します。


基本情報
| 体長 | 6.5~13.1㎜ |
| 分布 | 北海道、利尻島、天売島、奥尻島、本州、飛島(山形県)、粟島(新潟県)、佐渡、伊豆諸島、四国、九州(宮崎、大分、熊本の山地)千島列島、樺太南部 |
| 食草・寄生植物等 | 各種広葉樹 |
| 成虫出現期 | 4~8月 |
北海道と本州北部産(ssp. obscura Breuning, 1939)、四国産(ssp. nakayamai Komiya, 1984)、九州産(ssp. yamawakii Komiya, 1984)、伊豆諸島新島・利島・神津島産(ssp. confultis Komiya, 1984)、御蔵島産(ssp. obliquevittata Komiya, 1984)などの亜種に分けられている。
観察と撮影後記
本種は、広葉樹の二次林や林縁部において、(東日本では)比較的安定して観察されるカミキリムシです。日中は寄主植物である広葉樹の枯れ枝や、積み上げられた粗朶(そだ)に静止していることが多く、その体色と斑紋は樹皮に対して高い保護色として機能しています。なお東海~九州では保存度の高い山地に限定され、九州ではまれです。
学名について
シナノクロフカミキリ / Asaperda agapanthina agapanthina Bates, 1873
1. 属名:Asaperda(アサペルダ)
この属名は、先行して記載されていたカミキリムシの属名である Saperda(サペルダ)に、ギリシャ語の否定の接頭辞 「a-」 を冠した構成となっています。
Saperda: ギリシャ語で「ある種の塩蔵魚」を意味する言葉を語源として、ファブリキウスが命名した属です。
a-: 「〜ではない」「〜を欠く」という意味を持ちます。
つまり、属名全体で 「サペルダ属(サペルダカミキリ属)ではないもの」 あるいは 「サペルダ属に似て非なるもの」 という意味を内包しています。
2. 種小名:agapanthina(アガパンティナ)
こちらは別のカミキリムシの属名である Agapanthia(アガパンティア)に由来します。
Agapanthia: ギリシャ語の “agapetos”(愛らしい、好ましい)と “anthos”(花)から成り立ちます。
-ina: ラテン語の接尾辞で「〜に似た」「〜に属する」を意味します。
本種が 「アガパンティア属(キクスイカミキリ族に近い属)に似た姿を持つ」 ことを示唆して命名されました。
3. 命名者と年号:Bates, 1873
Henry Walter Bates: 19世紀のイギリスの昆虫学者・探検家です。「ベイツ型擬態」の発見者として知られ、日本の甲虫相の研究にも多大な貢献をしました。記載文献: Bates, H. W. (1873). On the Longicorn Coleoptera of Japan. The Annals and Magazine of Natural History, (4)12: 148-156, 193-201, 308-318, 380-390.
和名の由来
「シナノ(信濃)」 は、本種の模式産地(タイプ標本の採取地)や、古くから長野県周辺で多く記録・認識されていた背景に由来すると考えられます。「クロフ(黒斑)」 は、上翅に散在する黒い斑紋という、本種の最も顕著な外部形態的特徴を表しています。
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